睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
寝ている間に呼吸が止まる無呼吸や呼吸回数が減る低呼吸を繰り返します。何度も睡眠が中断されるため、日中の集中力低下や抵抗できないほど強い眠気に襲われ、QOL(生活の質)が大きく低下します。近年、睡眠時無呼吸症候群が原因で起こった大きな事故が何度も報道されたことで、この疾患の危険性が一般にも知られるようになっています。
また、睡眠時の無呼吸や低呼吸で、血中酸素濃度の低下による酸素不足、胸腔圧力低下や覚醒による血圧上昇によって心臓への負担増加などを起こし、心筋梗塞や脳血管障害など深刻な疾患を起こす可能性も高くなります。ご本人だけでなく、ご家族のためにも、睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合にはできるだけ早く受診してください。
睡眠時無呼吸症候群によって発症リスクが上昇する疾患
動脈硬化
睡眠時無呼吸症候群は血管や心臓に大きく負担をかけて動脈硬化を進行させ、狭心症や心筋梗塞、脳卒中などの発症リスクを上昇させてしまいます。
虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)
心臓に栄養や酸素を送る冠動脈が閉塞して治療を受けた方の追跡調査が行われ、術後の冠動脈狭窄や閉塞の発生率は睡眠時無呼吸症候群がある場合、有意に高くなると報告されています。
脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血・一過性脳虚血発作)
脳卒中を起こした方の3年間の追跡調査では、重症の睡眠時無呼吸症候群がある場合、脳卒中発症リスクが通常の3倍以上になることが報告されています
糖尿病
睡眠時無呼吸症候群の重症度上昇と糖尿病合併の割合には相関関係があり、重症度が上がるごとに糖尿病の合併率が上昇することが調査で明らかになっています。
高血圧
高血圧があると睡眠時無呼吸症候群の発症頻度が高く、睡眠時無呼吸症候群があると高血圧が発症・進行しやすいことが日本で行われた調査で報告されています。
睡眠時無呼吸症候群の種類
呼吸の際に空気が通る気道が閉塞して生じる閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)が多数を占めます。他に、脳幹にある呼吸中枢からの指令が一時的に途絶えて起こる中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)があります。ここでは患者数の多い閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)について説明しています。
症状
睡眠中に大きくあえぐようないびきや無呼吸を起こします。無呼吸や低呼吸で脳は覚醒して睡眠が中断されますが、はっきり目覚めるわけではないのでご自分では気付かず、ご家族などに指摘されてわかるケースが多くなっています。
また、睡眠の質が大幅に低下するため、起床時の疲れやだるさ、夜間頻尿、頭痛、日中の集中力低下、抵抗できないほど強い眠気、抑うつなどの自覚症状を起こしやすくなっています。また、口呼吸でのどに負担がかかり、炎症を起こしやすくなることもあります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査
眠気の判断に使われるエプワース眠気尺度、ご自宅で睡眠時の無呼吸や低呼吸状態を記録できる簡易検査、入院して睡眠時の状態を詳しく調べる終夜睡眠ポリグラフ検査があります。
エプワース眠気尺度(ESS:EpworthSleepinessScale)
患者様の主観で眠気の程度を判断します。睡眠時無呼吸症候群の可能性の有無の判断の参考にします。ご自分でポイントをつけて合計点を計算します。合計点が16点以上は重症、11点以上は病的過眠領域とされていて、早めの受診をお勧めしています。 主観的な眠気を調べるものであり、客観的な状態を確認して診断するためには受診して睡眠状態を調べる検査を受ける必要があります。
8項目の場面での眠気に、それぞれ0~3点のポイントをつけて、合計点を出します。
ポイント
眠ってしまうことはない 0点
時に眠ってしまう 1点
しばしば眠ってしまう 2点
だいたいいつも眠ってしまう 3点
状況 | 点数 | |||
---|---|---|---|---|
1. 座って読書中 | 0 | 1 | 2 | 3 |
2. テレビを観ている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
3. 人の大勢いる場所(会議や劇場など)で座っている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
4. 他の人の運転する車に、休憩なしで1時間以上乗っている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
5. 午後に、横になって休憩をとっている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
6. 座って人と話している時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
7. 飲酒をせずに昼食後、静かに座っている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
8. 自分で車を運転中に、渋滞や信号で数分間、止まっている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
簡易検査
問診で睡眠時無呼吸症候群が疑われた場合に行います。当院が検査装置を貸し出して、患者様がご自宅での就寝時に検査し、返却された装置に入っている記録データを解析して診断します。検査は、顔と手にセンサーを装着して就寝するだけで行えます。
睡眠時の無呼吸や低呼吸の平均回数AHI(ApneaHypopneaIndex:無呼吸低呼吸指数)を出して、睡眠時無呼吸症候群の状態の判断に役立てます。
状態 | AHI |
---|---|
正常 | 0~5 |
軽症 | 6~20 |
中等度 | 21~30 |
重症 | 31~50 |
最重症 | 51以上 |
終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)
主に簡易検査では判断ができない場合に行われます。専門病院をご紹介の上、入院して、呼吸運動、酸素濃度、脳波、眼球運動、心電図、体温、炭酸ガス濃度、いびきの状態を測定します。詳細な状態を把握して正確な診断が可能になります。
睡眠時無呼吸症候群の治療
CPAP療法
睡眠中、鼻に特殊なマスクを装着し、適切な圧力の空気を送り出すことで気道の狭窄や閉塞を防ぎ、無呼吸や低呼吸を防いで快適な呼吸を実現します。専用の装置を使用することで、ご自宅や旅行先でも治療を続けることができます。 無呼吸や低呼吸が起こらなくなって睡眠の質が確保され、日中の眠気や集中力低下も解消します。心臓や血管への負担も軽減するため、心疾患や脳卒中をはじめとした疾患の発症や進行を抑制する効果も期待できます。
CPAP療法は日本や欧米では睡眠時無呼吸症候群の治療法として第一選択になってきています。ただし、CPAP療法は睡眠時の気道を確保して無呼吸や低呼吸を起こさないための治療法であり、根本原因の解消にはつながりません。根治のためには、肥満解消などの生活習慣改善などが必要になります。
診察の流れ
保険診療による睡眠時無呼吸症候群の一般的な診療内容をご紹介します。
問診
睡眠の状態、起床時の疲れやだるさ、夜間頻尿、頭痛、日中の集中力低下、抵抗できないほど強い眠気、抑うつなどの自覚症状について丁寧に伺います。
簡易検査
検査機器を貸し出して、ご自宅で就寝時に簡易検査を行います。顔と手にセンサーを装着していつも通りに就寝してください。
再受診
検査機器を返却いただいたら、記録されたデータを分析し、1時間あたりの無呼吸と低呼吸の平均回数であるAHI(Apnea Hypopnea Index:無呼吸低呼吸指数)をもとに診断します。
AHI | 20未満 | CPAP療法以外の治療法が適しています。 |
---|---|---|
20~39 | 一泊入院して詳細に調べる標準睡眠ポリグラフ検査を受け、その結果によって治療法を選択します。 | |
40以上 | 療法による治療をお勧めします。 |
CPAP以外の治療
生活習慣改善
肥満は気道の閉塞や狭窄の主な原因です。カロリー制限や運動によって標準体重をキープすることで、無呼吸や低呼吸を根本的に解決できる可能性があります。また、筋肉を弛緩させる飲酒を控えることで、睡眠中に気道の閉塞や狭窄が起こりにくくなります。また、仰向けではなく、横向きに寝ることで気道を確保できるケースもあります。
外科的治療
まれですが、喉の形状などによって睡眠時無呼吸症候群を起こしていることがあります。その場合には、外科手術の口蓋垂軟口蓋咽頭形成術を検討します。
マウスピース装着
あごの形状の問題で横になると気道の確保が難しい場合、特殊なマウスピースを装着して就寝することで睡眠時の気道確保が可能になるケースがまれにあります。この場合には、歯科を受診して専用のマウスピースを作成します。
早めの受診を
お勧めします
睡眠時無呼吸症候群で治療が必要な方はかなりの数に上りますが、85%以上は未受診とされています。睡眠時無呼吸症候群は、健康にも大きな悪影響があり、QOL(生活の質)が大幅に低下します。さらに重大な事故につながるリスクも高い状態です。ご本人だけでなく、ご家族のためにも、下記の症状に気付いたらできるだけ早い受診をお勧めしています。
- 身近な方からいびきを指摘された
- 日中に抵抗できないほど強い眠気がある
- 集中力が落ちた
- 倦怠感がある
- 十分な睡眠時間をとっているのに疲れが抜けない など